2005年05月31日

physical awareness ll : 透き徹る事故

Bill Viola memoria, 2000.jpg われは我が慾を知る。我が罪は常に我が前にあり。  [旧約聖書 詩篇第五十一章]


 スイッチを押してから映像がうつりでるまでに、しばらくの時間がかかる。呆けたように画面を眺めてやり過ごす。アナログのテレビにはなかったこの時間の使いみちを、まだ身につけていないなとぼんやりおもう。しばらくすると、大写しになった若い女の表情が浮かびあがる。顔は涙に濡れ、表情はゆがんで見える。あらかじめ音を消しているこのテレビでも、女が感極まっていることはわかる。ただそれが歓喜ゆえのことなのか、あるいは悲しみや怒りによるものなのか、映りでた最初の瞬間はわからない。だが女の唇が震え、
背後を行き交う報道関係者のベストや機材、その後景に横たわるレールと枕木が目に入った次の一瞬、その映像が何を意味するのかを私は明瞭に理解する。
 またか、と考える。この数日、その繰り返しだ。ひと月まえの今ごろテレビのニュース番組は、いずれもそのようにして同じ一つ事故を、いつも似たような切り口から報じ続けた。

 ある一つの映像が、原理的にはそれが載せられる文脈によっていかようにも異なる見方から解釈され、価値づけられ得るとしても、これらのニュース番組がこうした映像によって訴えるのはだいたいにおいて一つである。この怒りをどこへ持っていけばいいのか。この悲しみをどうしてくれるの。生の感情が、年々精度を増してゆく映像によりそのままにパッケージングされ、投げ出される。それら感情移入の契機をこれでもかとばかりに与えられた視聴者の幾らかは、そこで起きたカタストロフの様相を眼でなでまわし、その怒りに“同情”し、底の知れない悲しみに“共感”することで束の間のカタルシスを心ゆくまで、堪能するのか。これら“同情”と“共感”の背後に潜む、享楽と狂気の兆し。
 これはあまりに斜に構えた見方だろうか。だがテレビに映しだされる記者会見の場で鉄道会社幹部へと向けられていた取材記者の口調のもつ、性急さに富み内実に欠けて聞こえるむきだしの攻撃性は、これら視聴者の期待に背を押され、水増しされているのだと考えることではじめて納得できる種の異様さを孕んでいた。
 そこには昨今はやりの、タレントが異国に滞在しアイドルが芸事を習う類の娯楽番組と何も変わるところがない、「感動をありがとう」 「うん、ぼくがんばるからね」という“お約束”の尻尾が見え隠れする。世界を救う正義のヒーロー、巨悪の根源の退治へ向かう。

 もっともこれは比重の問題で、番組内では事件の背景への言及もあり、日を経るごとに関係者の証言や企業の欺瞞へも取材は及んでゆきはする。だがそうした取材も結局のところ視聴者の好奇心を満たすことにしか動機がないから、いつになっても批判の矛先は特定の個人や組織の外に出ない。出るわけには、いかない。報道の自由、メディアの責務はそこにはない。十全としてそれらが‘ある’ことなど、ここではすでにありえない。


 かつてシュトックハウゼンが「想像しうる最大の芸術」と9月11日のテロを表現した旨の報道が為されたとき、心中に少なからぬショックを受けたことを覚えている。その衝撃はにわかに、いまわしく強い違和感へと変貌した。そのことの意味を当時の私はうまく掴めず、言葉にするまでにかなりの時間を費やした。


 この社会には、この社会自体が要請する人格というものがある。人はそれを希求する。なぜならそのような人格をまとってあることで、たやすく他者を見過ごし、罪過の意識なしに他者を消費してある暮らしははじめて可能となるからだ。そのさなかにあっては、人は外部に対して無自覚なままでいさえすれば良い。社会がそれを許容する。そのことで払う犠牲は人知れず、見えない場所へと追いやられる。

 したがってそのような社会構造がたとえば一企業体として顕在するときは確実に、“事故”が起こる。国家として顕現するときにも“事故”は起きる。なぜならそれらが現れるときは必然的に、外部は衝突と摩擦の多い排斥すべき他者として現れざるをえないからだ。そこでは共存、ではなく排斥、への志向を己のうちに宿してしまったことへの問いはあらかじめ収奪されている。構造的に。原理的に。

 それがこの国のこの社会ゆえの特徴的な現象なのか否かを、いまは問わない。だがたとえばこの国に息づく旧来型のカイシャという組織は多くの場合、“企業理念”を箇条書きにするだけでは飽きたらず、額縁に入れ石板に彫るなどして社屋のそこかしこに高々と掲示さえしているはずだ。生活文化の向上、豊かさと潤いのある社会への貢献、地球環境へのまなざし、云々。そしてそれらは多くの場合、すでに理念ではなく単なる建前、あるいは建前ですらなく、朝礼時にでも管理職の口走る、ただの念仏と化していることだろう。
 それゆえたとえば新人社員はやたら余計に、泊まり込みの研修や飲み会、初年度に与えられるハードな課題的職務などを通して早い段階でイニシエーションの契機を施され、会社人間への変身を強烈に促されることになる。いつのまにか仕事のうちに埋没し、自己目的化した仕事そのものに喜びと達成感を覚えるほかには、意識が向かなくなってくる。答えられる根拠を日々失っているさなかにあって、疑問を持ってもらっては困るのだ。「理念ではなく現実を見よ」として示される「現実」は必然的に、内側に閉じたもう一つの理念となる。他者は仕事上利用可能な要素の一つとして錯誤され、次第に矮小化されていく。

MoMA & Airplane Parts(1995), Nancy Rubins.JPG 脱線事故を起こした運転士もまた、そのような意味においては他の未だ事故を起こしていない‘社員’たちと同様に、現下の状況による被害者だ。上司や先輩社員との馴れ合いは企業論理への追従心を無自覚のうちに完成させ、付与される課題的職務は先輩社員への限定的で盲目的な憧れと、職務のうちに見出した自身の狭窄的な問題点のうちに引きこもる知恵を養ったことだろう。11ヶ月の実務経験があったという運転士は、その同じ11ヶ月をかけて乗客を交換可能なモノとして見なし取り扱う術を身に付けていったとしても、その責任は彼にはない。というよりそのような責任など彼にはもう、あらゆる意味で果たせない。ならば責任は一企業にあるのか。法的な補償問題を別にするなら、とてもそうとは言い切れない。
 気づけばそうなっている、ように仕向けられていることに気づくのは、きっと並大抵のことではない。退職後を“第二の”人生と呼ぶ世相が皮肉にも、部分的にはそのことを何よりもよく証しているとは言えないか。

 この傾向はたとえば今後全共闘世代が管理職からの引退を始め、国内市場での外資による株占有率が上がるにつれて、おそらくより顕著になってくる。全共闘の大人たちは良くも悪くも自身のうちに痛々しい葛藤を抱えていた。この国の株式会社を支える構造の基底には、護送船団にもなぞらえられる同質的な心情が共有されていた。葛藤は己に内省を促し、母船の存在は安全弁として多くの危機を未然に予防してきたはずである。これら二例にも相当するだろう幾多の要素が逐次姿を消したあと、この国のカイシャ文化とそれに規定される構成員とその家族、その親戚、その友人知人たちや地域のネットワーク等から成る社会全般へと及ぶ広がりをもつ種の精神的機制に、いまより一層無惨なモラル・ハザードが雪崩のように起きてゆくとしても不思議はない。ホリエモンを説得できる根拠はすでに舞台を降りている。

 「理念ではなく現実を見よ」として示される「現実」が第二の理念として語られ出してしまう不毛。このことを国家大に拡げて考えるとき、いまならたとえば改憲問題の是非が脳裏に浮かぶ。このことを個人大に当てはめて考えたとき、あらゆる異常な犯罪、大量の自殺者、引きこもり、ニートといった社会現象の背後に、現代に個人としてあることの暗闇に足をとられる。
 あの脱線事故は一時に多くの人命を損なうという非常に分り易い形で顕現したが、たとえば遠く国有企業の分割民営化にもつらなる各種公共機関の独立行政法人化とそれに続く指定者管理制度施行の流れや、旧来型の企業が新時代の到来にもがくなかで現にいま看過されているだろう幾多の目立たない過誤の連鎖のうちには、未だ不可視だが想像もつかないほどに甚大な事故の根が日々培養され続けているはずである。メディアが決して映しだす事のない、だが日々生起する事故にかざして本来切り結ぶべき焦点の一方の核は確実に、そこにある。


 音だけでなく、映像をも消してみるなら、それら機械の詰まった箱の表面になおも映りでている見慣れた人物の顔を通して、人は己がその実なにを観ているのかにあらためて気づくだろう。“事故”の端緒を、映し出される犠牲者の遺族や正義のヒーローたちの先にではなく、それらを若干の高みから見透す視線のこちら側に発見できるとしても、そのようなあなたこそを私は信じていたいとおもう。
 人間は、空を飛ぶために生きてはいない。地べたを這うために生きてはいない。一見これしかないと思える選択肢の幅よりも人はもっと自由だし、そこから見える現実以上にきっと世界はいつも豊かなはずなのだ。己の自由を、想起せよ。



※画像について
 画像(上):ビル・ヴィオラ[Bill Viola] <Memoria> [2000]
 画像(下):ナンシー・ルービンス[Nancy Rubins]<MoMA & Airplane Parts> [1995]

 ビル・ヴィオラは言わずと知れた「メディアアート」の巨匠。本物の開拓者が一番初めに切り拓きたどり着いた到達点を、後続の世代は結局だれ一人乗り越えることができないということの顕著な例として彼の軌跡を語ることは妥当である。すでに数十年の作家活動を経て、いまだ最新の視覚技術を取り込んでゆく勢いに衰えは見られない。
 ナンシー・ルービンスのこの作品は、ポール・ヴィリリオ[Paul Virilio:現代思想家]が2002年秋パリ・カルティエ財団にて企画開催した“Ce qui arrive (Unknown Quantity)”展への出展作品の一。同展は『速度と政治』等のヴィリリオの思想を美術展示という形式を通して視覚化した試みとも言えるもので、とりわけ2001年9月11日のテロ以降の社会状況の変化を鑑み、“accident:事故(とその偶然性)”に焦点を置いている。ヴィリリオやデリダ、少し遠くはバルトやメルロ=ポンティなどといった一線級の哲学者が公に美術展をキュレーションするようなフランスの風土を羨ましくおもう。日本にはない。というか、そのような形での思想の視覚化に耐えうる一線級の思想家がいるのかという時点でよくわからない。
 ビル・ヴィオラの大規模な個展を一度観てみたい。いつもグループ展にひっそりと出ているのを見つけては惹き込まれる。情報のある方お知らせいただければ是幸。世界のどこへでもたぶん行きます。

※シュトックハウゼンの発言については、発言の内容自体に強い違和感をもった、のでは当然ない。このときの違和感とはおおよそ、このような形で自らの欲望を代弁させるメディアと、それをたやすく受け入れてしまう世間、に向けられたものだった。言わずもがなだが言わないと誤解する人がいそうだし、その誤解を以て裁かれたりしては脱力の極みなので付記しておく。
 芸術を巡る発言により、芸術を芸術へと駆り立てた一方の当事者であるメディアが自らの欲望を代弁させる醜態。当事者は背後に潜み素知らぬ風で己は無力とうそぶくのか。他人のこんなセリフで世を騒がすメディア関係者の頭の仕組みはすでに欲望一色、人ではない。にしてもそんなものに惑わされ自らの判断もなく受け入れてしまうとすればその人の個とは何なのか。それでも自分と言えるのか。シュトックハウゼンのそれは敢えて報道にのせるまでもない、スキャンダルでもなんでもない、ただの真っ当な発言。

※このような事故が二度と起こらないことを願います、と気分だけの言葉を吐くのはとてもたやすい。愛とか世界平和とか絵空事を言って何が起きているかをみようとしない、関心をもたないその姿勢こそが実際には最も深刻に、愛からも平和からも致命的に、遠い。ジョン・レノン気取りのロマンチストは、亡きジョン・レノンの対極で日々無関心を装うことにその実汲々としているのだと信じたい。そうでなければ理解できない。
 個人的にも両親の出身地のうち一方は兵庫であり、旧友の一人は9月11日のテロで親友を亡くしている。同情せよ、共感せよ、というモードには従わないがその意味でも、あらゆる意味でも、これらの惨事はなに一つ他人事ではないし、他人事として語ってはいけないのだと考える。事故の犠牲者には、心から追悼の意を表します。

※本稿は、別項記事[physical awareness : 感性の論理へ]の続編として書いた。
posted by kushán at 08:52| Comment(4) | TrackBack(1) | 想起 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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