
この作品、何より光っていたのは美術の手際で、舞台となる1910・20年代のミュンヘンの街角や、当時の人々の生活様式、風俗の再現に異様なほどの執着を感じた。単に画面に古色を添えるだけでなく、窓ガラスや家具類、各種の生活用具などといった室内インテリアにバウハウスなどの先進的なモードを
大いに取り入れており、カメラが丹念にそれらを映し出していく。制作にハンガリーがからんでいるのは恐らくロケ地として重用したからだろう。
これは意外な掘り出し物だったなと満足して美術スタッフを確認したら、“コックと泥棒、その妻と愛人”などグリナウェイ作品を複数手がけている Ben van Os だった。撮影は Pierre Gill。
話を戻せば、“Max”はハンガリー・カナダ・イギリスの共同制作、"The Rise of Evil"はアメリカCBSの制作で、どちらも2002年に撮られている。2001年9月11日のテロをどう克服するかというところで、“他者”への理解を深めたい、あるいは促したいという心理的機制に、提出された構想案がうまく載ったというところだろう。たとえば同じアメリカの制作会社HBOが2001年秋に発表した“Band of Brothers”などと比べると、ナチに駆動される<普通の人々>に対する視線の変化が明確に読み取れる。
また“Max”が架空の画商という媒介者を準備することで、ヒトラーの“そうはならなかったかもしれない”可能性を仄めかすのに対して、"The Rise of Evil"はドキュメンタルな趣きを添えることで“こうにしかなれなかった必然”を納得付けようとする、その方向性の対照はそのままイスラム原理主義勢力に対する欧米の態度の差に通じているようで興味深い。(後者に備わるこの偏狭さは Carlyle の好演によってかなり掬われてはいるものの)
ストーリーについては省略。映画を観たい人にはネタばれになるし、他の個人サイトやポータルサイトで散々語られているだろうし。
公園の茂みにランプを吊るす小鳥売りや、第一大戦に敗戦した名残で鉄くずの山と化している廃工場の描写など、ディティールまでよく作り込み、撮り切っていた。セリフの端々に、「エルンストは俺よりハンサムか」とか「今度のオープニングにはデュシャンも呼んでるぞ」、「ではクレーなどはいかがでしょう」などと当時の前衛芸術家たちの名がぽんぽん出てくるのが面白い。
監督は Menno Meyjes、主演は John Cusack と Noar Taylor。Meyjes は Spilberg作品などの脚本を長く書いてきた人らしい。画商の妻役で翳のある知的な女性を演じた Molly Parker など、脇役のキャスティングも巧い秀作。
"Max" Menno Meyjes (dr) / Hungary, Canada, UK / 2002 / DVDレンタル
こちらの記事を読ませていただいて
すごく勉強になりました。
MAXの家のセットなど、ステキだったので
この映画の美術のことは気になっていたんです!
こちらからもTB送らせていただきました。
どうぞよろしく。
アメブロで最近いっつもハジカレテます(苦笑)
相当、当方のタイミング悪いんだろーな。全くアクセスできなかったり、泣くですヨ。で、すっかり早寝早起きになりました(苦笑)コメント遅くなって申し訳ない。