2005年02月02日

“マルセル・デュシャンと20世紀美術”展 横浜美術館

Duchamp.jpg “芸術が裸になった、その後で”と副題の付くこの展示は、「20世紀はじめの美術に大きな転機をもたらしたマルセル・デュシャン(1887−1968)の主要な作品75点と、デュシャンと向き合った世紀後半から現代までの芸術家34人による作品78点を対置し、美術とは何かを考える企画」(美術館HPより)との由。

 この“対置”という方針が今回の展示ではポイントになっていて、結論からいえばこの発想はやや不完全燃焼に陥っていたように見える。たとえばデュシャンの良く知られた代表作<彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも>(通称≪大ガラス≫右下画像)の置かれた展示室では、この≪大ガラス≫に触発されて、あるいはオマージュとして制作された他の美術作家による作品が
duchampglass2.jpgその周りを取り囲むように配置されているのだが、このようにデュシャンの作品を核とした関連作品群が各々グループを作って団子状に連なっていくという構成は、鑑賞者に“デュシャン自身あるいはデュシャン作品そのもの”への興味と“他の作家作品やデュシャン作品の後代(現代)への影響”等への関心との往還の繰り返しを強いることとなり、結果としてどちらの点においても消化不良な印象を抱かせかねない。出展作品の総数がもう少し多ければ、この構成はもっと効果的に利いたのかもしれない。
 この展示構成を生かした教育普及のプログラムが組まれており私も参加してみたけれど、記入シートに並ぶ質問事項に誘導尋問的な窮屈さを感じて途中でやめてしまった。知り合いの学芸員によれば、この展覧会が大阪を巡回した折には、デュシャン作品と他の美術作家の作品は完全に別枠で見せていたらしい。試行錯誤は大切だが、今回に関しては関西での展示の方が良かったのではないか。

 とはいえデュシャン作品をこれだけまとめて観る機会は初めてだったので、個々の作品には楽しめるものが多かった。≪大ガラス≫関連では、構想段階で描かれたデッサンやこの作品を図様の面で構成している幾つかの絵画作品なども展示 duchampmariee.jpgされており、小品ではあるが<花嫁>のデッサンは良かった。左画像は奈良原一高による写真作品<デュシャン大ガラスと瀧口修造シガーボックス>で展示作品ではないが、中央の機械仕掛けのような形象はこの<花嫁>を元にしたもの。(クリックすると拡大画像が見られます)
 出展されていた≪大ガラス≫は瀧口修造らにより制作され東京大学に収蔵されているレプリカ。デュシャン本人の手を経ず、しかし本人の承認を得ているレプリカは世界に三作品あって、右上に挙げた画像はおそらく、世界最大のデュシャンのコレクションを持つことで知られるフィラデルフィア美術館のもの。とりわけ上部の平面構成や彩色の具合に差異が出ている。(どちらの画像もネット状で拾ったものです)


 <泉>[1917/1964](冒頭の画像,美術館HPより)は、実地に観るとやはりただの便器だが、それゆえに際立って見えるものがある。デュシャン以降の“現代美術”作家はすべてデュシャンの様式的模倣だと言う人もいるけれど、転倒された便器が作品台に高く置かれた様に触れるだに、それは確かに言えるかもしれないとの観を強くした。
 しばらく前の朝日夕刊で美学者の篠原資明が訳語としての作品名「泉」を取り上げ、原語"Fountain"のニュアンスからこれは「噴水」とすべきだと主張していたが、そう言われてみれば「泉」の語は作品に無用の神秘性を抱かせているようにも思える。篠原はそうは言ってなかったと記憶するが、人工的な響きをもつ「噴水」の方が、既成品から錬金術のように価値を増殖させていくデュシャンのレディ・メイド作品のもつ内実を明確に体現しうる。
 横浜の展示会場では<泉>の脇に<ブッダ>と題された金メッキを施された便器の作品(作者名失念!)が配置されていたけれど、宗教性や資本主義的欲望を加味したこの連関はマックス・ヴェーバーを彷彿とさせて面白い。(前言がほんのり翻ってます、はい。。。)


“マルセル・デュシャンと20世紀美術”展 横浜美術館 2005年1月5日-3月21日
しかし石川の天気が、すごいことに。。。
posted by kushán at 23:51| 石川 🌀| Comment(6) | TrackBack(11) | 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フィラデルフィアにあるのはオリジナルだからひびが入っていると思います。
3つのレプリカは、それぞれストックホルム、ロンドン、東京にあるようです。

金色のは、チラシに載っているけど、シェリー・レヴィーンという作家のようですね。

Posted by rinopo at 2005年02月03日 22:22
訂正感謝です。なぜかオリジナルはヨーロッパにあるものと思い込んでいたのだけれど、よく考えたらぜんぜんそんなたないし、画像は自分的にほぼ明らかに東大のものだという気がしてきました。しばらくしたら本文も直そうと思います。今後とも見つけた際には訂正入れてくれると勉強にもなり助かります。よろしくです。

そうそう、シェリー・レヴィーンだ^^
Posted by とろ at 2005年02月04日 07:17
TBありがとうございました〜。

確かにデュシャン以後の作品との比較というのは、それぞれを個別に理解するという点では消化不良を招きかねませんでしたね。
ただ、久保田成子の『デュシャン・ピアナ』等、その作品と並べて鑑賞することで新たな発見があるような組み合わせもあったのではないかと思います。
最高の展示方法とは言えないと思えますが、デュシャンを理解するための参考作品だと割り切って頭を整理していました。

何にせよデュシャンの世界に入り浸れる貴重な場でしたね。
幸せでした。。。
また行こっかな。
Posted by 村崎式子 at 2005年02月05日 08:15
トラックバックありがとうございましたー。

「対比」という意味では、デュシャンよりも彼に影響を受けた人たちのやろうとしていたことのほうが、影響されたという事実を強調したい(?)がためか、鋭さがあるという印象でした。

またお邪魔させてくださいー。

Posted by bei-jing at 2005年02月06日 02:27
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